2014年のうちに書いときたかった「せつなさ」の定義について。山田詠美の解釈をログしときします。
山田詠美はせつなさを、「ある種の特殊なフィルターを持つものだけが味わえる刹那の感情、大人の極上の消費」と定義づけている。
…それでは「せつない」という感情はどうか。これは味わい難いものである。
外側からの刺激を自分の内で屈折させるフィルターを持った人だけに許される感情のムーヴメントである。まったく味わえない人もいるし、ひんぱんに味わう人もいる。何故かというと「せつない」という気持ちに限っては、心の成長が必要だからである。つまり、それは、大人の味わう感情なのである。
ーーー山田詠美「せつない話」収録「五粒の涙」より
私的にはsecret baseの「君がくれたもの」とかジッタリンジンの「夏祭り」とか、「スタンド・バイ・ミー」とか、ジュブナイルにだって十分「せつない」フィルターは存在すると思う。正確には、人は「せつない出来事を通して子供から大人へ脱皮する」んだろう。
少しの甘さと痛みでフィルターの精度は上がる。それを知ってしまったら、知らなかった頃には戻れない。頻繁に味わえるかは、自分の中のフィルターに気づいているかどうかによる。
そして、自分のせつなさフィルターに気づき醸成するには、より上質の「せつない物語」に身を沈めるしかないのである。
・収録作家…吉行淳之介/瀬戸内晴美/田辺聖子/八木義徳/丸谷才一/山口瞳/村上龍/山田詠美/D.H.ロレンス/A.カミュ/F.サガン/H.ミラー/T.ウイリアムズ/J.ボールドウィン/
↑この中の瀬戸内晴美「けものの匂い」が今んとこ生涯のベスト小説です。
・収録作家…すみません風呂で読んで紛失してしまい現在手元にあらず。有島武郎、宇野千代など、なはずです。
「せつない」感情の味わえる時間はだいたいが刹那的で、その感情が沸き起こる理由を論理的普遍的には形容しがたい。
だからこそ、そういうものをこそ、短歌で、物語で、口頭で、鼻歌でステップで、適切なツールならなんでも、しっかりピンしときたい、できればだれかと共有したい、と思います。