「クリムゾンの迷宮」読み終わりました。貴志祐介は初体験。もう10年以上前の作品なんだな。おもしろかった!
私好みのエグさでしかもおもしろくて後半は久しぶりに頁をめくる手が止まらない(KIndleだけど)というトリップ体験をあじわいたいへん満足。
提灯レビューにならないようにいいところのほか、「あえていうなら」、「この伏線って何?」と既読の方に訊きたい部分をログしときます。
■あらすじ
主人公藤木は砂礫の上で目を覚ます。そこは地球上とは思えない、赤く枯れた荒野の大地だった。
藤木同様、なんらかの理由で社会からドロップアウトしたもの、脛に傷もつ者たちが集められ開催される「生きるか死ぬかのゼロサムゲーム」に知らぬ間に巻き込まれてしまった藤木。ヒントになるのはゲーム機と「火星の迷宮」というゲームブックだけ。
果たして藤木は「人ならぬもの」から逃げ、無事この「クリムゾンの迷宮」から生きて帰れるのか?
※以下のっけからネタバレありなので内容を知りたくないかたはそっ閉じしてね↓
■良かったとこ
エグい
物理的なエグさももちろん「極限状態でヒトはどう本性がむき出しになるか」というのがよく出ていたなと思います。
純文学ならもっとエグく重いけど、エンタメホラータッチだからそこまでマイクラにならないのもまた良し。
情報量がかなり多い
舞台はまるで火星のオーストラリアの荒野、「バングル・バングル」というところ。
サバイバルの知恵はじめ毒蛇、ドラッグ・カクテル、トラップ、果てはラストで明かされる藍の身体的な秘密まで作者の知識、情報の幅が広くかつ量がハンパない。
ぐぐったら作者の貴志祐介さん京大出身で小さいころからミステリ・SF大好きなんですね。納得。
ファンタジーのような世界は実現可能
ネタバレをしてしまえば、このゲームはどっかの富豪がスナッフ・ムービーを撮りたいがためにお膳立てした大掛かりな遊戯で、藤木らはそれに巻き込まれたってこと。
だから火星のような舞台も食屍鬼もゲームの部外者を排除するシステムも、ファンタジーじゃなくてきちんと現実的な裏付けがある。
逆をいえば、「荒唐無稽で非人間的なこの世界観はどこかのバカにその力と金があれば、人間の手で作れる」ってこと。全体を読み通して最後、それが一番こわかった。
エンタメミステリ・サバイバルサスペンスに徹している
表現に目新しさがあるわけでもなく純文学のように人の機微にフォーカスしてるわけでもない。
途中でハリウッド映画のように藍との濡れ場があったり、他の書評にもあったように「娯楽ムービーのメイキング」を書きながら、作者の貴志祐介もまた読者に娯楽を提供しているんだと思う。
だから途中「それは強引じゃね〜??」っていいたくなるような人間の行動や展開も大体飲み込めてしまう。
終盤「食われるのか!助かるのか!」ってドキドキしながら頁ぐんぐんめくっちゃったもん。
書くべきこと書かなくていいことを徹底している
作者すげーなと思ったのは、徹底して「読者がおもしろいと思うところ」だけにフォーカスして書き抜いているところ。
ゲームの参加者一人ひとりの設定はもちろん舞台の背景、拉致された方法まで細かく現実的にされてる。そのことが物語に信ぴょう性をもたせているんだけど、作品ではあくまで「藤木が鬼から逃げて生還すること」を丹念に描いている。
「これは書くべきか?台詞で説明すべきか?」って悩むところだと思うんだけど、ほんとに面白いとこ以外はバッサリやっちゃってるのがまあ匠の技ですね。
■あえていうなら
藤木博学すぎじゃね?
物語は藤木よりの三人称で進んでいくんだけど、証券会社勤務で過去にボーイスカウトの経験があるとしても藤木が博学かつ頭の回転がよすぎる。
藍ものちにゲームの運営側であることがわかっても頭が回り過ぎる。
藤木の行動にときどき整合性がない
そんな博学MAXの藤木だからこそ、時々とる行動に整合性を感じない。
たとえば藤木は物語後半、ゲーム上「重大なペナルティ対象」である高い山に登る行為を犯してしまうんだけど、追われるストレスからといってもそれまでの理知的な藤木の行動からの流れではどうしても「やらされてる駒感」を感じてしまうんだよね。なぜその行動に衝動的に走ったのかあまり共感、納得できない。
まあ多分それを丹念に描写しようとすると上下巻に分かれるボリュームになるんでしょうな…。
ゲームの背景についてちょっと説明ぎみ
後半は賞金500万円を手にした藤木が探偵を頼んでゲームの背景を探ろうとする。
そこで藤木はこれが壮大なスナッフ・ムービー製作であったことを知るのだけど、そのあたりは探偵と藤木の会話のやりとりでほとんど走り書き状態の説明。
このゲームの観覧を楽しんでいた奴らがどんな奴か、藍はどこに行ったのかを書くと馳星周とか大沢在昌っぽいブラックノワール探偵もので1冊できそうだなあ。
ゲームブックの作者の背景って何か関連してる?
ストーリー進行のヒントになるのが途中で藤木が拾う「ゲームブック」の存在。このブックを作った作者の背景や恋人まで細かく設定されていることを、読者は後半の探偵の台詞で知る。
これってストーリーに何か関連ある?作者の恋人が突如行方不明で失踪、その後うつ秒で執筆不可能に…って細かすぎて、なんかあるのか気になる。
恋人が藍?とも思ったけど、時間軸あわないし。
■総評
エンタメものとして最高
藤木の人物描写とか雑!ってとこはあるけど、逃げるか食われるかのハラハラエンタメ感は最高だった。
読みやすいのでエンタメミステリ、グロも可な方にはいいですね。
次はなんだか評判良さそうな「青の炎」か「新世界より」を読もうか、それから「悪の教典」にしようか迷い中。
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